はじめに
現在ではスマートフォンをはじめとするUSB機器、持ち運びのできるスマートフォン用のポータブル/モバイルバッテリー充電器など、様々なデバイスでMicroUSBコネクタが使用されています。今回はMicroUSBコネクタを使う機器でUSB2.0での定格(500mA)を超えて使用したい時にKiCadで設計する際のちょっとした"小技"をご紹介します。
コネクタは小さい・・・
各社MicroUSBコネクタのデータシートを確認すると、いずれもコネクタピンのピッチ幅は2.4~2.6ミリとなっているものが多く各ピンとの間隔も狭い。設計にあたってはこの点が大きな課題です。USBの定格を超えて電流を流しても、機器が安定して動作するよう設計する必要があります。今回はKiCad(※1)で設計をする際にEeschema(回路図エディタ)内のF.Maskレイヤ(基板表面の半田マスク)を使いMicroUSBコネクタ部の設計を行った事例をご紹介します。通常のF.Cu(表面レイヤ)にF.Maskレイヤを重ねて設計し実装時に厚みのある半田層を作ることで許容電流値をあげようというものです。
試作基板の写真を交えてご説明します。
USBの規格に関しましては下記をご参照ください。
(詳細はhttp://www.usb.org内のUSB2.0 ドキュメント ( http://www.usb.org/developers/docs/usb20_docs/ ) をご確認ください )
基板の仕上がり
まず最初に仕上がった基板をご覧ください。
MicroUSBコネクタを基板に手実装しました。基板上の設計配線値幅は以下の通りです。
MicroUSBコネクタピン幅=2.6mm
F.Cuレイヤ=0.4mm
F.Maskレイヤ=0.2mm
先に述べたように、MicroUSBコネクタの各ピンは非常に細かなピッチ間隔で配置されております。流したい電流値を元に計算した配線幅をそのまま回路図上で反映させようとすると基板製造上にあたり不具合が生じる場合があります。今回の設計は "MicroUSBコネクタのピンをそのまま延長するような感じ" でしょうか。F.Maskレイヤでの配線を計算した配線幅を得られる場所までレイアウトします。これにより他の電子部品の端子部同様の半田レベラーが施されます。実装時にはコネクタのピンと基板上のパターンに半田がのることになります。
続いてコネクタを実装する前の基板の写真をご覧ください。
写真より配線幅やレイアウトに無理がなくMicroUSBコネクタを実装できることがご理解頂けると思います。
このF.Maskレイヤを用いて配線をデザインすればピッチ間隔の非常に狭いコネクタや半導体に応用したり高速な通信を用いる箇所、安定して接地を行いたい箇所など様々な設計に応用が可能だと思います。
続いてCAD上での設計画面をご紹介します。
まず、従来の設計と同じく使用したいコネクタを回路図図面に配置しF.Cuレイヤ(写真上では赤色)で配線幅を指定し配線をしていきます。次にF.Maskレイヤを選択し配線を行います。今回の設計では接地側はベタパターンを採用しているため、一部配線はどこにも配線接続されておりません。F.Cuレイヤでの配線が完了したらF.Maskレイヤでの配線を行います。
F.Maskレイヤでの配線を完了しました。
写真上では紫色の配線で表しています。この配線を施すことで半田マスクが行われます。配線の手順は、
① F.Cuレイヤを選択
② 「配線」ボタンで配線のレイアウトを行う。
③ F.Maskレイヤを選択
② の「配線」ボタンで配線のレイアウトを行います。
ご注意!
F.Maskレイヤでのレイアウトがコネクタや半導体の金属部と近いまたは接触すると意図しない部品が半田メッキが行われたり、動作不安定や最悪ショートに繋がる可能性があります。配線設計のデザインにあたり注意が必要となります。
最後に
昨今ではUSB PD規格対応のUSB Type-Cコネクタ採用の機器が多くなりました。USB Type-Cは大電流にも対応し高速な伝送も可能ですがMicroUSBコネクタは未だ現役です。エンドユーザー用にMicroUSBを利用した充電器などが普及しており、汎用性もあります。またコネクタの部品コストも小さい。試作や小ロットでの生産、製造を行うにあたり片面基板上での実装で済むため、MicroUSBコネクタは実用の機会も多いのではないでしょうか。今回はMicroUSBコネクタに着目しましたが応用例は今後も広げられそうです。
※1 KiCad Version 5.0.0-rc2.dev-217-g86603125aにて設計